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日が闌(た)けて木深い溪が日の光に煙つた樣に見ゆる時何處より起つて來るのだか、大きな筒から限りもなく拔け出して來る樣な聲で啼きたてる鳥がある。初めもなく終りもない、聽いてゐれば次第に魂を吸ひ取られてゆく樣な、寄るべない聲の鳥である。或時は極めて間遠に、或時は釣瓶打(つるべうち)に烈しく啼く。この鳥も容易に姿を見せぬ。聲に引かれてどうかして一目見たいものと幾度も木の雫に濡れながら林深くわけ入つたが終(つひ)に見ることが出來なかつた。筒鳥といふのがこれである。 この筒鳥といふのが若しかしたら佛法僧ではあるまいかと私は思つてゐる。右に引いたある雜誌には佛法僧の姿を『鳩より心持小さく羽毛全體緑色勝ち、頭は淡黒色、嘴は朱色をして短く末端が少しく曲り、背と腹は緑色、それにコバルト色の冴えた斑があり、翼は碧緑色をして約七寸ばかり、翼と尾の端は黒く濡れ羽色をしてゐる』と記したあとにその啼き聲を書いて『ホツホー、ホーホーホーホー』といふ風に啼くとしてある。これだと私の聞いた筒鳥とよく似てゐるのだ。 然し、いづれにせよこの鳥の啼き聲は到底文字などに書き現せるものではない。聲に何の輪郭がない。まつたく初めもなく終りもない。そしてこの鳥の啼いてゐる間、天も地もしいんとする樣な靜けさを持つた寂びた聲である。