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今月號の或雜誌に佛法僧鳥のことが書いてあつた。棲(す)むところはきまつてゐて夏のあひだだけ啼く鳥なのかと思つてゐたら、遠く南洋の方から渡つて來て秋になればまた海を渡つて歸つて行く鳥であるさうだ。 私たちの結婚した年であつたから恰度今から十一年前にあたる、武藏の御嶽山(みたけさん)に一週間ほど登つてゐた事がある。山上のある神官の家に頼んで泊めて貰つてゐた。ある夜、私は其處の厠(かはや)に入つてゐた。普通の家のよりずつと廣い厠であつた。良い月の夜で、廣やかな窓から冴えた光がいつぱいに射しこんでゐた。其處へ聞きなれぬ鳥の聲が聞えて來た。何でもツイ厠に近い樹の梢からであつた。 私の癖の永い用を足して自分の部屋に歸つたが、閉め切つた雨戸を漏れてなほその澄んだ聲が聞えて來る。ランプの灯影にぢいつと耳を傾けてゐたが、僅の定つた時をおいて續けさまに聞えて來るその鳥の聲のよさに私はたうとう立ちあがつて戸外へ出た。そしてあの樹であらうと思つてゐた何やら大きな樹の根がたに歩み寄つた。然しその時は其處とは少し離れた他の樹の梢にその聲は移つてゐた。足音を忍ばせてその樹へ近づいて行つたが、それを知つたかどうか、またその先の杉の樹に啼き移つてゐた。毎晩霧の深いに似ず、その夜はまつたくよく晴れて、見渡す峰といふ峰は青みを帶びてくつきりと冴え、眼下の谷を埋めて立ち竝んでゐる杉の一本一本の梢すらも見分けられさうな月夜であつた。其處へその鳥の聲だけがたつた一つ朗かに冴えて響いてゐるのである。鋭いといふでなく、圓みを持つた、寂びた聲で、幾分の濕りを帶びながら、石の上を越え落つる水の樣になめらかに聞えて來るのである。